男性外来

はじめに

欧米で男性更年期障害(andropause)の存在が示唆されたのは60年前に遡りますが、学会レベル(the International Society for the Study of the Aging Male:ISSAM)で本格的に対応されたのは10年程前からであります。本症の発症機序は確立したものではなく男性、ホルモンの低下、社会や家庭でのストレス、通常の加齢に随伴する心身機能の低下等が指摘されており、うつ病や勃起障害(ED)、また最近注目されているメタボリックシンドロームなどとの関係解明は今後の課題となっています。本邦では男性更年期障害という疾病概念が先行し,これに従って男性ホルモン補充療法、抗うつ薬、ED治療薬、漢方薬等を用いた治療が開始されています。

*メンズヘルス学会から引用

男性外来を始めたきっかけ

2022年2月14日にクリニックを開業し、早4ヵ月程が経過しました。
その間に、お電話にて男性更年期障害の相談を多数いただいたことが、今回「男性外来」を立ち上げるきっかけでした。様々なストレスに晒される現代では「病名のない疾患」が数多く認められます。男性更年期障害もそんな疾患の一つです。これらの疾患は従来、年齢や心因性のものとされてきましたが、加齢男性性腺機能低下(late-onset hypogonadism:LOH)症候群の診断手引きが制定され、より身近な疾患になった印象があります。

LOH症候群については様々な病状があり、受診するまでにためらいがあるかもしれません。LOH症候群はQOL疾患かつ症候群であり、必ずしも疾患の原因に応じた治療を行えば改善されるものではありません。しかしながら、少しでも皆様の症状の改善にお役に立つ事ができればと思い、この男性外来を立ち上げました。

※2022年7月以降、金曜日の午後を男性外来としています。(これまで通り、一般外来も受け付けております)
※症候群:いくつかの症状や所見が一連のものとして認められ、経過や予後(医学上の見通し)などを含め特徴的な様子を示す“病的な状態”に対して命名されること

2022年6月
はら泌尿器科クリニック 原 浩司

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テストステロンとは?

男性において、男性ホルモン(テストステロン)の低下は狭心症や動脈硬化、肥満、メタボリックシンドローム、アルツハイマー病などさまざまな疾患の原因や予防に関与していることが知られてきています。テストステロンは健康長寿を考える上で重要なホルモンであることが研究によってわかってきています。

テストステロンとは?

LOH症候群とは?

男性更年期障害とは、加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の低下によって引き起こされる症状のことで、LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と呼ばれています。男性更年期障害は近年認知されるようになりました。40代後半から見られ、患者数が最も多いのは50~60代です。中には70~80代で症状を訴える方もいます。一般的には、テストステロンの量は10代前半から急激に増え始め、20歳ごろをピークに加齢とともに徐々に減少していきます。ところが何らかの原因でテストステロンが急激に減少してしまうと、体はバランスを崩し、さまざまな不調を引き起こすのです。テストステロンを減少させる要因はいくつか考えられます。

代表的なものとしては、「ストレス」が挙げられます。テストステロンは大脳の視床下部からの指令によって主に精巣でつくられますが、心理的ストレスを長く受け続けて交感神経優位の状態が続くと、大脳から「テストステロンをつくるな」という指令が出されてしまうのです。男性の50~60代に患者数が多いのは、加齢によるテストステロンの減少に加えて、職場でも家庭でもストレスに悩まされやすい時期だからかもしれませんね?

参考:男性更年期

テストステロン補充療法(TRT)について

TRTの方法としては、経口剤、注射剤、皮膚吸収剤がありますが、わが国では注射剤エナント酸テストステロンのみが保険適応となっています。(残念ながらLOH症候群に対してのエナント酸テストステロンは保険診療では認められておらず、自費診療になります。お値段については診察時に説明させていただきます。)

通常2週間おきに125mg~250mgを筋注します。また、ゲル剤は、注射剤よりも生理的であり、欧米ではゲル剤を好む患者が増えていますが、我が国では保険適応外です。TRTにより、筋肉量、筋力、骨密度、インスリン感受性、気分性欲、健康感の改善が認められます。勃起不全については、PDE5阻害薬の作用を増強します。TRTにより前立腺癌が生じることはほぼ完全に否定されつつあります。TRTの臨床試験ではプラセボ群(偽薬群)とホルモン補充群で前立腺癌が発見される有害事象の頻度は変わらず、むしろテストステロン値が低い患者ではPSAが比較的低値にも関わらず悪性度が高い前立腺癌を高頻度に経験されています。またテストステロン補充における前立腺癌の発症頻度は延べ2966人中14人でした。これは、すなわち年間212人に1人の前立腺癌検出率がある計算になります。

当クリニックでは、治療前に前立腺癌がない事を必ずスクリーニングしています。PSA2.0ng/mlを超えるような場合には、アンドロゲン補充療法の適応外となります。また定期的に直腸診 エコーを施行し、PSAを測定することで前立腺癌の早期発見のきっかけにもなります。
そのような前提の上で、テストステロン補充は安全性の高い治療といえると思います。
男性更年期およびEDにお悩みの方は、一度ご相談ください。

テストステロン補充療法(TRT)について

男性の難治性疾患 慢性前立腺炎

参考:慢性前立腺炎

慢性前立腺炎とは、前立腺が慢性的に炎症を起こす病気です。慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群と呼称されます。臨床的によく遭遇しますが、多くの場合、治療に難渋します。生産活動の中核をなす比較的若年層に多く発生します。
慢性炎症の原因として、前立腺の虚血、自己免疫反応、感染、メタボリックシンドローム、ストレス、ホルモン環境の変化、下部尿路閉塞や前立腺管内逆流などが考えられていますが、原因は不明です。

具体的な症状

具体的な症状

「なんとなく下腹部が重だるい、お尻が落ち着かない、集中できない。股の付け根あたりに違和感や不快感がある」といった症状です。会陰部や下腹部、鼠径部などさまざまな部位に痛みや不快感が出現、頻尿、残尿感、射精時の痛みなど非常に多彩であり、長時間のデスクワーク、食生活(飲酒や辛い物の摂取)、性行為によって悪化したりすることがあります。精神的なストレスもきっかけになります。これらの症状のため生活の質が著しく低下します。症状が多彩のために、正確に診断されず困っている、あるいは、どこの診療科に行っていいのかもわからない患者さんも多いとされているようです。

具体的な検査

具体的な検査

尿検査、直腸診、前立腺超音波検査にて器質的な異常がないか評価します。当院では場合によりPSA(前立腺癌マーカー)採血などを行います。しかし診断方法は確立されていないため、正確に診断されずに困っている方もいらっしゃいます。

治療方法

まずは生活指導を行います。症状が悪くなるきっかけがあれば、それを避けるように指導します。例えば、長時間の運転やデスクワークの禁止、頻回・多量の飲酒の禁止、辛い物の摂取の禁止、ストレス解消などです。
確実な薬物療法はありませんが、植物性薬剤や排尿症状を改善させるα1ブロッカー、場合によっては抗菌薬を使用します。慢性前立腺炎は原因不明の難治性の疾患であり、根治的な治療方法や即効性のある治療薬はありませんが、内服薬にて症状を緩和しながら細く長く付き合っていく疾患といえるかもしれません。
思い当たる症状の方は一度ご相談ください。